the world's langue “Zetsugo”
とりかご

「The first place」



いつも、夜が明けるころに口を噤む、僕の詩。
(囀りを見失ったまま発音記号のない文脈を游ぐ雛鳥、)
いつも、夜が明けるころに口を紡ぐ、僕の詩。
二つの陽が交合をする、朝、
僕は、
はじまりを遂げることも、
終わりを遂げることもできない。
(真夜中、声のない雛鳥は表意の水をくぐる、)



語彙、に
血が点る。
凪ぎ、の中心
黙祷、
(尖塔、)
風の墓場に僕は立つ
足元には、血痕


声、
詐りの
音階をのぼり、
おりる、黒い人々、
水の飛沫、
たかく燃え拡がる世界語
parole



記載された蒼穹、
訃報を、刻まない、
涙に濡れない、墨の(火時計、)
長針、影、あざやかな隠喩の皮膜が破れ、
なにもかも、およそすべてが沈黙の声に没した日、


洪水、
やがて、
彼岸には
文字の底を游ぐ
雛鳥だけが遺されるから、
衣服はいらない、
散乱する、
羽毛、
重力にくちづけられ、
揺れる雪花、
(脈絡のない独白をするならば、)
赦された雛鳥は裸のまま、
罫線として引かれた電話線は、
剥落する、白黒、
水中花の上下、白黒、


それでも、
文字で囲われた城壁のなかは
いつもへいわだった、

へいわだっ、
た、



いまだ に、






「彼女は
本を読むのが好きだった。
いつも、華奢な彼女にはおよそ不釣り合いの、
厚い革表紙の古書を鞄にいれていた。
(題名は、

「The first place」絶語





。ひとみをひらいたとき、せかいはまばゆいひかりのこうずい。
鶺鴒のはこぶ比喩の、影と、まじわる僕の、
「The first place」が水面に波紋をおどらせる。雨、
鈍色の飴玉、(いいかい?
ひかりとは、重複した風景が視るまぼろしなんだ、)





「calma」


凪いだ世界のさなかには、
逆しまの風が吹き荒れている、
(零下、)
雪花がみだれるとき、
本棚、本棚は

防空壕、
氷のようにあおい火がふりそそぐ、
蒼穹、焚書の渦、
呼び声、ひかりのした、
ひかりの舌に血が点る、

世界は、
灰になった紙、の
質量にひとしい、
だから、
いつわりを記す声を
さばく罰は不在、
(鎮魂されてください、)
わたしと、わたしの、
手と手と手と手は
偶像、です(か?



、無音、
風の、墓場、
、雪合戦、



文脈、
あわい水の流れに、
裸の鳥は身をくゆらせ、
游ぎ、去る、世界語「The first place」

彼女の本は、僕の知らない言語で描かれている。
異語、読めない、
読めないなんて、まぶしい、
(とっても、)と、
それが、
(凪ぎの中心で
立ち尽くす僕が呼ぶ
ただひとつの彼女glossolalia、)
僕には読めない
よべない、
よめない、





(imada ni、)























「resonancia」


うたうためにうたわれるせかいなどえいえんにつがうことのできな
いゆいいつのせきれいのあわいひとみのなかのみずうみのみなもで
繊細にたゆたう灯火だと訃げてください、岸辺、人差し指、えすか
れーたー、空、うたを発しつづけて不在となった罰、すなわちわた
しから発されたうたの骨は、火が落ちて車の通行が消えた真夜中の
幹線道路にまたがり、黄色の、しぐなるを、明滅させる、洪水、こ
こにひとはなく僕もひとではなくもはや声もなくただただ転がるの
は世界語「The first place」、「The first place」と唱え
る裸の鳥、と、ひかりの破片、雪花、風凪ぎをはこぶ風、こごえる
ようにつめたい羊水の記憶のなかで、世界は世界して、指先は凍結
し、四肢は鉛のように重い、(白黒、横断歩道をわたる、真夜中の
「The first place」、(墨色の音階、彼女の音のない口笛がす
なわち古書の血溜まりのなかで、祈りを掲げる、(傲慢な僕は、そ
んなもの要らないから、といって、投げ捨てた、(あざやかな時の
腐海へと身を投げ入れた「The first place」が白昼夢の波紋の
ように手から手へと伝染していく。雛鳥はとうに巣から堕ちて死ん
でいるのよ。だから、もうこんなさえずりはいらない。聴こえない
聴かない。氷のように燃える火が卵をなぜる、静止、凪ぎ、なぎの
まんなかで、風は吹いているのにこんなにもしずか、しずかに、し
ずかに死んでいるのよ、雛鳥はくちがきけないから、(しんで、い
る、から、ね、(白骨、しろい、くろい、くろがねの、くろがねの
空を、裂く、「The first place」、逆しまの声が届かない深淵
の向こう、語彙に宿る語彙の嘘に鳥を見たのさ!


皆、死んだ、
僕や、僕や、僕、(あるいは、)
死ねば、皆おなじ。
おなじ亡骸たちの葡萄に、僕は詩を認めた。
四畳半の子供部屋で、描いた、描かざるをえなかった言語、も、
詔、も、亡骸のまえに、ねむる。ねむる僕は、幾多もの夢を見る。
ゆるやかなカーヴをえがく深海魚。そうして、
空も海も大地も融解し、浮遊、手のひらのうえで、
たのしく、目覚めるといつも、執拗にあかるい、













「imada ni」








kanojouta ha













「refrain」


息をとめて、瞼をおろせば、
いつもそこは深淵で、
羊水の感触だけが涼しい。
(知ってしまったから、)
世界は世界するのをやめない、
(僕が僕することをやめないから、)
声はしない、歌もない、
それでも、なぜ、
(音階は僕の前に捲られつづけている、)


血に、
語彙が点る。
暴風、の中心、
火葬
(凍土、)
空の墓場に僕は立つ
燃え拡がる血痕、


、婚姻、
比喩から比喩へ、
波紋が伝染しては、
あけわたされる、


防空壕、本棚で声をひそめてささやきあった秘匿、平和な僕のため
だけに用意された溶けない雪の羽。死者を冒涜するための呪文は誰
も使わなくなった言語で僕が殺した僕の墓石に記してある。知らな
い、すべてを知ってしまったあとの世界ではもうなにも知る必要が
なかった。彼女の、華奢な彼女はいまわらっているのか。巨きな本
のようだ。聖句に覆われた僕の、母胎、なだらかに充ちる鼓動、不
在となった行方不明の彼女、古書を捲る、言語を捲る、僕の、世界
の、首都にひびく風、羊水、陽の、陽をとざす、夜明け、こごえる
ひかり、水底、記憶、記述、世界語、赤子たち、


声をなくし、
血溜まりに沈む彼女ことばを呼ぶとき、
おもいだす題名は、
いつもいつも、


「The first place」、


「The first place」、


「The 、






その日から
戦争は絶えず、
指折り数えた、
影踏み。











自由詩 the world's langue “Zetsugo” Copyright とりかご 2012-10-31 07:09:48
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