サーカス
結城 希

彫刻の道化が
舞台の上に佇んでいる

暗闇のなかで
誰かが固唾を呑む音がする

彫刻が 手を振り出した先に
三振りの剣が現れた

剣は 次々に道化を離れ
宙高く飛び上がっては
また道化の顔上に戻る

一つとして同じ軌跡なく
乱雑な無秩序でありながら
完全な制御下にあるというのか
道化を傷つけることは敵わない

拍子が爆ぜる
深奥から
無音の兵士たちが現れる

十六名の兵士が円陣を組み
気炎を吐いて道化を囲む
道化は鋭く剣を投じ
三名の兵を葬って疾駆する

撥条床を高く跳ね上がった道化は
襲い来る槍頭を寸前で躱し
素早く地に降り立つが
残る十三の兵は尚も道化を取り囲む

円陣は次第に縮小し
道化は行き場を失う

兵たちが一斉に槍を突き出し
道化の躰に十三の穴が穿たれる
――直後に その虚像は掻き消えた

旋律が閃く
舞台を彩る光条を縫って
人影が兵士を打ち伏せる

道化が闇空を舞っていた
天上から下りる紐帯を操り
宙を駆けながら 兵たちを圧倒した

音色が凪ぐ
演目は終焉を迎え
道化は柔らかく地面に降り立つ

道化の仮面を外した
まだあどけない顔立ちの少女が
満面の笑みを浮かべていた

そして 喝采が湧く


自由詩 サーカス Copyright 結城 希 2012-10-31 01:43:09
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