ペットショップで
そらの珊瑚

日曜日 うっかりペットショップをのぞいてしまう
生まれたばかりのかわいい仔犬が
ガラス越しにじっとわたしをみつめてくる
さっきまで泣いていたかのように黒い瞳が濡れている
この人はここから連れ出してくれる人だろうかと
わたしもまた値踏みされている

少し大きくなった柴犬は
赤い文字で値引きされている
命の値段
ここでは命は商品なのだ
スーパーで林檎を買うように
気軽にはいかないといえども
原理は一緒である
生産者がいて商人がいて消費者がいる
売れ残ったあとに この子がたどりつく現実
それはしなびた林檎が最後にどうなるのかと同じであろう
命の値段
私の値段はいくらであろうか

家に帰ると
うちの犬がしっぽを振って出迎える
子供が小さい時犬を飼いたいというので
動物愛護センターから引き取ってきた犬だ
葬られてしまったかもしれない命を
たったひとつでも生かしてあげられたという
自己満足
それにしたっていのちをやりとりしているに過ぎない

あのこらはどんな夢を見ているのだろう
おおかみだったら
野を走り 狩りをする夢を見ているのだろうが
犬であるから人の傍らで眠る夢かもしれない
あのこらは運命にあらがう牙を持たない
ペットショップで売られている仔犬よ

月曜日 身体が重い
素通りしたい現実は世の中には無数にあって
そのひとつひとつに私は蓋をする
蓋をしたからといって現実はなにも変わらないのだが
蓋をしなければ 心はもっと重くなる
 


自由詩 ペットショップで Copyright そらの珊瑚 2012-10-30 08:23:28
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