夜へ
そらの珊瑚

横向きで寝る
いっさいの灯りを消しても
消せないものが浮かんでくる
まぶたを閉じても
眼球が光のない世界で動くように
スイッチを切ったつもりでも
同時にもうひとつのスイッチが押されている
ひざを抱えるようにして
何かを待っている

布団の間に出来た
私だけの小さな空間が
呼吸するように熱を帯び
いのちを抱いているような気になる

いくども くりかえされてきたはずの
ありふれた儀式なのに
気がつけば
夜へ漕ぎ出す櫂が見当たらない

人はどうしてあんなにも無防備に
眠りに旅立つことができるのだろう
遠い国の明けの埠頭に必ずたどりつくという
やくそく、さえしないで

横向きで寝る
まくらの下から
なつかしいさざなみが聴こえてくる
私の耳は巻貝になり
潮が満ちてくる
――夜でないすべてのものたち、さようなら
やがて出航の汽笛が鳴るだろう


自由詩 夜へ Copyright そらの珊瑚 2012-10-29 10:24:08
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