夜へ
そらの珊瑚
横向きで寝る
いっさいの灯りを消しても
消せないものが浮かんでくる
まぶたを閉じても
眼球が光のない世界で動くように
スイッチを切ったつもりでも
同時にもうひとつのスイッチが押されている
ひざを抱えるようにして
何かを待っている
布団の間に出来た
私だけの小さな空間が
呼吸するように熱を帯び
いのちを抱いているような気になる
いくども くりかえされてきたはずの
ありふれた儀式なのに
気がつけば
夜へ漕ぎ出す櫂が見当たらない
人はどうしてあんなにも無防備に
眠りに旅立つことができるのだろう
遠い国の明けの埠頭に必ずたどりつくという
やくそく、さえしないで
横向きで寝る
まくらの下から
なつかしいさざなみが聴こえてくる
私の耳は巻貝になり
潮が満ちてくる
――夜でないすべてのものたち、さようなら
やがて出航の汽笛が鳴るだろう