絶語
とりかご

「The first place」


いつも、夜が明ける頃にはゆらいでいる、僕の詩。
(ちいさな卵が孵化し、深淵からやってきた一羽の雛鳥)
いつも、夜が明ける頃にはふるえている、僕の詩。
だから僕は、陽差しの下で自分の言葉を見つめたことがない。
(雛鳥は、真夜中に羽ばたきの練習をしている)


語彙、に
血が流れる。
凪ぎ、の中心
無音
風の墓場に僕は立つ
足元には、血痕


銃声、
急速に収縮する
エクリチュール、


拘束された青空、
時を刻めない、
長針、イメージの皮膜が破れ、
なにもかも、およそすべてが文字に沈んだ日、


やがて、
文字が蒸発し、
裸のイメージ、
の残骸が、
散乱、
時間から、
剥落する、白黒、
銃殺の亡骸、白黒、


それでも、
文字で囲われた城壁のなかは
いつもへいわだったのけれど。






「彼女は
書物を読むのが好きだった。
いつも、分厚くて、古めかしい、
革表紙の書物を鞄にいれていた。
華奢な彼女におよそ、およそ不釣り合いの。
題名は、

【The first place】





。ひとみをひらいたとき、せかいはまばゆいひかりのこうずい。
僕は、虹色の雌鳥と、まじわったが、子宮は天をうまない。
昇降するひかりとは、蓄積された記憶から照射されるものなんだ。



「gusty」


凪いだ世界のまんなかに、
封殺されていた風がなだれこむとき、本棚、本棚は

防空壕、
戦火に煽られる、
蔵書、の渦、
ひかりのした、
ひかりの舌に血が流れる!

僕の世界は、
恐ろしく矮小な、
紙切れ、のはじに記された落書き、
だから、
「紙は燃えても、


夢は燃えない」


流れる風に、
雛鳥は身を踊らせて、
飛び去る、飛びぬける言語、「The first place」

彼女の本は、僕の知らない言語で書かれている。
退廃した異語、僕には読めない、
ひかりがまぶしい、ね、と、
それが僕の、
最後の、五感、だっ、た、
僕には読めない
読めない



「glossolalia」


ひとみをうしなってしまえばみえるものはなく、みえるものがなけ
ればえがけるものもない。子宮、あたま、ち。ちにくがうずまき、
ほねがきしむ。きおくすらあいまいにあいまいに減速する言葉が溢
れでて虚ろな眼孔には読めない単語をはめて「The first place」 、
「The first place」と唱える幼き、僕、と、見えなくなったひかりが
七色の音階、耳は聞こえていてもきこうとしていない脳髄、おさな
いころにすりこまれたものは巨きい。雛鳥は巣から堕ちて死んでい
たのよ。で、もうこんな目玉いらない。卵。らんしと静止、凪ぎ、
なぎのまんなかで、風は吹いているのにこんなにもしずか、しずか
に、しずかに死んでいたのよ、それから、くちのきけない雛鳥は、
腐敗、し、蟻がたかって、くろい、くろがねの、空を、裂く、「The
first place」、おもいだせない深淵の向こう、語彙の届かない語彙に
鳥を見たのさ!

死んでしまえば皆おなじ、
おなじ死骸の淵に、僕は詩を認めた。
四畳半の子供部屋で、描いた、描かざるをえなかった言語、も、
詔、も、死骸のまえに、ねむる。ねむる僕は、幾多もの夢を見る。
ゆるやかなカーヴをえがく深海魚。そうして、
空も海も大地も融解し、浮遊、手のひらのうえで、
たのしく、目覚めるといつも、執拗にあかるい、


「refrain」


息をとめて、瞼をおろせば、
いつもそこは深淵で、
羊水の感触だけが涼しい。
「せいめいとはかがくできないから、ことばでしるしてやる。

熱」
骨にうまれた雛鳥は、真夜中に羽ばたきの練習をしない。
諦めて、骨の熱をかんじて、頬、さみしく、

本棚は、やはり、防空壕だった。平和な僕のためだけに、用意され
た七光の、羽。記憶をたどるための暗号は、誰も使わなくなった言
語で、瞼の裏に刻まれている。あのときのまま。彼女の、華奢な彼
女は、いまわらっているのか。巨きな本のようだ。すべて、およそ
すべての喪失、生誕、詩句に覆われた、僕の、母胎、なだらかな鼓
動、行方の知れない彼女、書物をめくる、言語を、めくり、羊水、
陽の、陽をとざす、つめたい、水底、
記憶、
おもいだす題名は
いつもいつも、

「The first place」、

「The first place」、

「The 、



その日から
戦争は絶えず、
指折り数えた、
影踏み。


 


自由詩 絶語 Copyright とりかご 2012-10-28 23:25:19
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