海月の夜
永乃ゆち



嘘を憎むのなら

誰かを傷つける罪を覚悟しなければいけない。

嘘を否定するのなら

真実を受け入れる強さを持たなくてはいけない。



あの晩彼女をありきたりな理由で傷付けて

深夜のファミレスに逃げ込んだ。



原色の海月たちが賑やかしいファミレスで

僕は初めて孤独を感じた。



彼女は透明な涙を流して

けれど決して僕を責めなかった。



彼女は僕にごめんねとありがとうを初めて教えてくれた人だった。

そして愛してるの意味と正義と罪を示してくれた人だった。



そんな彼女を傷付けて

僕は独り海月に雑ざって

夜に支配されていた。



嘘を憎むのなら。

嘘を否定するのなら。



あの晩

海月たちの喧騒に紛れ

初めて気付いたことを

夜が終わる前に彼女に

彼女だけに伝えたくて

伝えたくて。



月も隠れがちな夜に

彼女に会いに

何も持たずに

歩いている。


飾る物も無くして

ただの心臓ひとつになって

歩いている。



海月たちは遥か遠く

ぼんやり光って消えた。




自由詩 海月の夜 Copyright 永乃ゆち 2012-10-28 20:37:03
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