駆けだしのセーラーソルジャー
否々

女の子って何で出来てるか知っている?制服だって成分みたい。それはもう無添加で透明で遺伝子組み換えでない。学校とか、専攻とか、教室とかでかわっちゃう未来。中庭で創作ダンスをしていた普通科の子たちは、なにを創ろうとしているんだろうって、眺めながら授業中、好きなバンドの切り抜きで作った筆箱に残ってた溶けかけのチェルシーを、貼りついた銀紙ごと口に放りこむ。
私だって好きな人のこと考えていたかった。夏の空の高い高いところまで、誰にも負けないくらいに鮮やかな群青色の絵の具を撒き散らすほど大胆に。
処女でいることが恥ずかしくて処女じゃないフリをしてた2年生。女の子たちはどんどんサンプリングされてゆく。つややかにしたたかに、ぐるぐる巻きのキャンディみたいに甘ったるくなってゆく。濃縮された甘い雫は、誰に向かって垂れているんだろう。モスバーガーでバイトしてた雪兎みたいなクラスメイト、雛鳥みたいな声で「ココアはおまけね」ってウィンクしてくれた。こりゃ敵わないです、先輩。撃ち抜かれた私はマシュマロといっしょに溶けてしまう。制服は戦闘服なんだわって気づいたのだけれど、使いこなしがまだまだ足りないみたい。
去年の11月、7番めに好きになった名前も知らない男の子は、ヘッドフォンからよくわからないテクノを垂らしながら、魚屋の前で子持ちししゃも指さして、「こういう女がタイプなんだよね」って照れながら言って、それがフられたんだってことに気づいたのは、その子が剣道着のまま雨の中を逆走していったからだった。悲しくて泣いてるんじゃなくて、女の子としての武器が欲しくて泣いてたところが、液体水素の入ったドラム缶が並ぶ立体駐車場だったから、むくんだ足で蹴っ飛ばした。爆発したら私も混ざって浮くのかな。浮遊する女の子って結構ニュータイプじゃない?きっとローファーは足枷なんだ。先輩が褒めてくれたやつだし。好きだった広い背中。ロングヘアが好きだと言ったのを思いだして、悔しくなって高く結うことだってできるくらいには立ち直ってる。大丈夫、たたかえ反逆のセーラー服!ニュータイプの私はおみくじを引いて、「吉、田園都市線に縁があり」を道しるべにまんまとホームで待っている。その目は鈴みたいだと言われたんだ。ビーム出ないっぽいから、武器にはならないけれど、音くらいはなるかもよ。私、女の子成分入ってますって。
いつか聞かせてあげる。そしてそっと投げるんだ。パンプキンパイにむきだしの愛をこめて。


自由詩 駆けだしのセーラーソルジャー Copyright 否々 2012-10-27 23:17:15
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