ORION
マーブル



ORIONの一すじの涙はオオカミの喉をつたっていった
ドン・ファンのシルエットが壁に映って
眠たげに呼吸する悲恋はもう海に還ってしまった
漣の番
砂浜の影
コンバース
黒のレザージャケット
煙草の白いけむりは
風向きを優しく教え
砂を叩けば真昼の月が
まあるい破片を拾っていた




子守唄はもう届かなくとも
わたしの耳には
コスモスが風に靡いている
柔らかな哀感がざわめく



果てない夢を見ている子供たち
やすらかに眠ればいい
小さな風車が回りだし
おっかない者たちは
皆踊りだすから


はにかんだ手の皺と
透明な薬指の糸
ちぎれちぎれに秋雨に濡れて
蜘蛛の巣の糸は太陽の光で
虹色に反射するだろう



ORIONは流星雨の日に
たくさん涙を流したから
私はそれを指で掬ってみたが直ぐにまた零れだしてしまった
溢れるばかりで私の手にはおさまりきれなかった
そのはみ出した雫を
飲干すのはあまりにも甘酸っぱすぎる
どうか空っ風に吹かれ
蒸発してしまえばいい


クレヨンで描かれた観覧車に乗って
子供たちに手を振る時は
幼さに愁い泣いた日々を
愛するためでいいんだろう


息をするのも苦しいくらい
小刻みな吐息は青すぎたんだ
その時菫の花は静かに萎れ倒れこんだ
涙を堪えて苦しむその姿は
満ち潮が訪れる時のような
浅ましい女の罪だったのだろうか
同罪を求めなくとも男の瞳は深い夜の海の色をしていた


二人は硝子になった
粉々に弾け飛んで
誰かを傷つけた
そんな痛みは猫のひっかき傷と同じくらいで
私は爪を丁寧にしまうことすら上手に出来なかった
それでも痛みは紅く残るばかりで
少しの苛立ちと震えを覚えた




真昼の月はモノクロームの写真となった
贅沢な嘘に愛を燃やすことは出来ない
悲恋の森のなかは薄暗い
其処を彷徨えば二度と戻れなくなってしまうよ
ちいさな焚火がそう言っていたんだ


私の愛は冷えきっていて
吹雪のなかで凍えることしか出来ない
それを溶かすのは何ものなのか
いまだにわからない


終わりの見えない詩に私は途方もなく
呆れかえってしまう
冷たい女は熱情に溶かされる一瞬を待ち焦がれる
雪の結晶は悲しくもなく嬉しくもなく
あっという間に溶かされることを待ち望んで



冬の訪れを
静かに
みあげている















自由詩 ORION Copyright マーブル 2012-10-27 19:39:51
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