バビロン再訪
N.K.

夏と秋の間に線が引かれる
夏の空気と秋の空気が入れ替わったのだと言う

若い頃に
紙に縦線を引いて
左側にはできたことと
右側にはできなかったことを
書き出す男の話に夢中になった

できたことなどほとんどなかった
できなかったことなど思い当たらない
つまりはこれからできる時間があるとしか
その時思っていなかった

あれから何回
夏の空気と秋の空気が入れ替わったのだろう

あの男にも小さな娘がいた
今の自分にも娘がいる

計算を教えるぐらいの娘だ
ページの真ん中に縦の線を引いて
左側には入ってきた金額を書き
右側には実際に使った額を書いて考えるのだと
伝えるような

昔はヒツジ雲が律儀に秋を自分に知らせてくれた
今はイワシ雲がヒツジ雲に成り損ねて浮かぶ

季節の変わり目になると調子が狂うと感じる
歳になった男は
こうして過去と現在とに引き裂かれるようだ
こうして夏と秋との間に引き裂かれるようだ

真ん中に縦線を引いて
左側にはできたこと
右側にはできなかったこと
夏と秋の間に線を引いて
夏の側には思い出を
秋の側には悔恨を

それぞれつけるということも
計算上は赤字だということも
さすがに分かっているほど
今では自分でさすがに分かっているほど


自由詩 バビロン再訪 Copyright N.K. 2012-10-22 22:25:11
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