一人で終わる
テシノ

野良猫が歩いていました。
な〜んて言っても
それが本当に野良猫かどうかは
知りません、雰囲気です。
つまり、小汚い猫でした。
後ろ足を引きずっていました。
痛々しくはありましたが
怪我をしている様子はありません。
恐らくもう何年も前の怪我の
後遺症なのでしょう。

しかしそれを見た瞬間、私の子供が
いえ、正確に言えば
私の中の子供の部分が

可哀想、助けなきゃ!

と叫びました。



私は、大人としての私は
過去に散々、道端の小動物を
助けたり助けられなかったりした私は
あの猫は助けなんか求めちゃいないと
なんとなくわかっていました。

けれど、足を引きずって歩く猫を
助けたいと叫ぶ子供に
何と説明し
どう納得させればいいのか
私にはわからなかったのです。

なので
見なかった気付かなかったことにして
そのまま忘れてしまおう、と。

通りすぎようとする私になおも
子供は叫びます。

助けないの!?見捨ててしまうの!?



その時、声が落ちてきました。
いいえ雨降るようにではなく
それは落雷でした。
ドカンと一発、頭の上から
まるで私を叩き潰すかのごとく



違う!あの猫は今、一人で歩いているんだ!



その瞬間、振り返ると
猫はただ
自力で歩く一つの命でした。



救いたいという想いと
自分以外の命への不可侵。

前者は優しさですか?
後者は冷酷ですか?
私にはわからなかったのです。

一丁前にその昔、死にたいなどと
口走ることなくその言葉だけを
育て続けたことのある私は
救う対象に、命ではなく自分を
救われたかった自分を見ていたとしたら
もしも他者の命への介入が罪深いとしたら

救いたいという私の想いは、いったい
どこへ還せばいいのでしょうか?

私にはわからなかったのです。



いまだにわかりません。



どちらにしてもあの声は

答えを出すのはお前自身だ

と。


散文(批評随筆小説等) 一人で終わる Copyright テシノ 2012-10-22 18:42:58
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