回帰
高瀬

すべき約束がどこにもないので
迷い指をさらしている
午前三時前のゆるい空気と
雨ざらしのベランダ
水滴のコップとなまぬるい炭酸水
小指を残したままの右手に
あることとないこととを考えたらば

ゆうるり と

境界線が溶けるよう
すべての距離があいまいに
のびたりちぢんだりする世界が
わたしの頭のなかまでも
のばしたりちぢませたりするみたいに

、分解して

かたちを留めたまま
まとまりを欠いてしまったわたしの
すんなりとした右の手が

かえりたい。

と洩らしても
やはり約束などはどこにもないので
小指をそっと折りたたみ
とうに気化した炭酸水を
静かにあおるしかなかった


自由詩 回帰 Copyright 高瀬 2012-10-21 23:28:12
notebook Home