回帰
高瀬
すべき約束がどこにもないので
迷い指をさらしている
午前三時前のゆるい空気と
雨ざらしのベランダ
水滴のコップとなまぬるい炭酸水
小指を残したままの右手に
あることとないこととを考えたらば
ゆうるり と
境界線が溶けるよう
すべての距離があいまいに
のびたりちぢんだりする世界が
わたしの頭のなかまでも
のばしたりちぢませたりするみたいに
、分解して
かたちを留めたまま
まとまりを欠いてしまったわたしの
すんなりとした右の手が
かえりたい。
と洩らしても
やはり約束などはどこにもないので
小指をそっと折りたたみ
とうに気化した炭酸水を
静かにあおるしかなかった