絶句
三田九郎

美しい女に

美しい

は軽率だ

本当の馬鹿に

馬鹿

とは言わないし

嫌いな奴には

かける言葉もない

ひとり

いつものバーで

とあるカクテルを口に含むと

決まって言葉を失う

もっとふさわしいもののために

僕らはときに沈黙する

日夜

それなりに親しい人物や

どうでもいい何者かが眼前に現れ

口やかましく何かを言い

表情を忙しなく動かしている

僕はただ

眼前の人がそうするように

何かを言い

言わず

その場面を形作っていく

表立っていることは

いつだってほとんど無意味だ

君はいつも僕のそばで

僕とのあいだを、ただ

沈黙で包み込む

好きだ と言いかけ

カクテルを口に含み

沈黙を取り戻す

無意味だ その確信が

音を立てて崩れる幸福

君だけを見つめて

絶句していたい


自由詩 絶句 Copyright 三田九郎 2012-10-20 22:09:24
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