失われた私のしっぽ
そらの珊瑚

犬に
おやつをあげました
これきり、と言うと
少し節目がちになり
それまで動いていたしっぽが
ぴたりと止まります

正直な犬
おまえは決して嘘をつかないから
嘘をつく人間は
失われたしっぽのことを思い出して
切なくなるのです
ほんとは人間にもしっぽはあったのです
けれど嘘をついてしまうので
しっぽはいたたまれなくなって逃げていきました

おまえが子犬だった頃
小さなしっぽをぶるんぶるんと
ちぎれるほどふりながら
しろつめぐさの咲いた丘から
駆けてきたのを思い出します
ほんとのことが満ち溢れ
私はそれを抱きしめるだけで良かった季節
私はそれを愛するだけで良かった季節
あの時私の失われたしっぽがぶるんぶるんと
五月の風にのって甦るのを
きっとおまえは知っていたのでしょうね


自由詩 失われた私のしっぽ Copyright そらの珊瑚 2012-10-19 07:24:41
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