霖雨
マーブル

すっかり途方に暮れてしまっていた。
もうかれこれ40分は白い空白を眺めて、おもむろに煙草を三本程吸う。
深夜三時の深海。外は秋雨の霖雨の悲につつみこまれ、鉄は錆び濡れているのかと一度、哀感するのだ。
私は大きく息を吸って、ちいさな弱々しい溜息をついた。
それから不意に、雨粒がひとしずくかふたしずくか
ベランダに飾ってあるスミレの青紫のしなやかな花びらに、付着しているのを、想像してみる。

そうすると幾分か、冷静で不規則にきこえる雨音に、微熱を覚え始める。
昨日の夕方頃から、熱をおびていた額は今は生温く、それは些か私の存在意識へと導くには手っ取り早い方法だった。
薄々と幻のように消えてしまう半透明な存在意識。私は、「臨場感のある生活ってどんなんだろな」と、考えていた。


街を歩いている感覚でさえも浮遊しだし、本当に私は、透けてしまうんじゃないかと、街を歩く度、思うのである。
帰りの電車なんかはいつも。乗車している人間の顔や感情は最早なにも、感じたくない。
重たい鉛のような目をし、ただただ、見えないふりをしている。しかし、景色だけは違った。
過ぎ去っていくビルのネオンは、すーっと流星のようにカラフルに吹き飛んでいるし、ちょっとした小さなクラブパーティーに
ぶら下がっているミラーボールの光の粒子みたいに、実に愉快なものだった。
空の雲を見るのも、夕陽がじわじわとしずんでゆく様も、どれも素敵だった。
だから私は、窓際が好きだ。座っているより、手すりに身体を凭れて、携帯電話も触らずに
景色を意識に写し絵するのである。



 いつの間にか、雨音はしなくなっていた。
 夜明け。
 4:20








散文(批評随筆小説等) 霖雨 Copyright マーブル 2012-10-19 04:09:58
notebook Home 戻る