ホスピタル・サーキット
木屋 亞万

点滴片手にガラガラと音を立てながらコーナーを攻める青白い男性
その背後から名前を連呼しながら桃色のナースが駆け抜ける
男性の行く先には簡易トイレを手押し車に疾走する老婆
速度を落とすことなく廊下を一直線だ
老婆の手で光る携帯電話が蛍のようにきらきら光る
行く手には両手を広げた介護士が廊下にドンと仁王立ち
行き過ぎた病室のドアのスリットからは地縛霊が熱い視線を送っている
老婆は急カーブを描いてトイレにピットインだ
老婆はトイレの個室に入り鍵をかける
携帯電話の震える音がサーキットにこだまする
トイレでレースは団子状態に陥った
扉を叩く介護士
名前を呼ぶナース
男性は隣の個室に駆け込んで壁によじ登る
壁と天井とのわずかな隙間から覗き込む
老婆が男性を見つけた
にこやかに手を振る老婆
手のひらからこぼれる振動
古池に飛び込む蛙の音
さあどうしよう
きっと水没だ
後で干すか
蛍は水に浸ったままだ
ホスピタルサーキット
さあきっとほすぴたる


自由詩 ホスピタル・サーキット Copyright 木屋 亞万 2012-10-18 20:03:52
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