いつか月の眠る森で
月乃助



 いつか どこかで
 すれ違った
 小さな縁
糸を手繰り寄せられ、
髪を結い
黴のにおいの
黒い衣を身にまとう
 行き場を失った 御霊が
 森を 来世を 
 彷徨っているらしかった
黒縁の額の女は、菊に守られ
読経のひびき
香のかおり
村人たちの 別れ歌
 忍ぶことを知らず
 嗚咽の
 息子は、平然と憚らず涙をおとす
 咎めることなど
 誰も できようもない
幸せだったと、
不幸せだったと 人が
口にする
 ぼんやりと 
 私は、けして幸せを尺度とせず
 奇跡を信じることのない
 そんな生き方を 夢想する
人が一人 去り 
二人去り
森はいつもの静寂 昨日の星の
明かりをとりもどした
 私もきっと この森に
 眠る
巨きな杉の老木のもと
土に還る
小さな縁の 私の残した種子がまた
そこに 育つことを
祈りながら 







自由詩 いつか月の眠る森で Copyright 月乃助 2012-10-17 20:43:16
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