雨が降ってくるとき
itaintme83

耳鳴りが止まない 夕立が止まない 誰も気に病まない
いくつもの六角形めがけて降りてくる無数の線
歩道橋では今日も神様が飛び降り自殺をしようとしている
マンホールは踊り出しボートが通りを行き交っている
水中眼鏡でそれを眺めている僕はとうの昔に沈んでしまった遺跡のようだ
信号が青に変わる時、全ては眠りから覚めていく
その時が来るまで、その時が来るまで、僕はずっと水の底から世界を見ている

プランを立てよう
つまりは毎日遺書を書き続けるのだ
僕の人生に関する説明書
それはたぶん100MBにも届かない
どこにしまおう?誰に送ろう?悩みは尽きないが、蝋燭の炎はやがて全て消えてしまう
やがて僕は遺書を書くのを止め、今を生きることにした
そうして僕の世界は水没していく

すれ違う人たちはみんな傘を持っているが、僕には必要ない
怒りを燃やせばそれはたちどころに乾きひび割れていくだろうから
ひび割れたこの背中に雨は染み込んでいく
誰もが何かを燃やしているが、それらは閲覧されることのない図書館の本に似ている
濡れそぼった雑誌がふやけていくように僕の心も溶けていく
「みんな溶けてしまえばいいのに」
そんなことを考えながら僕は通りを睨んでいる

あのジーン・ケリーのように歌えたら
あのジーン・ケリーのように踊れたら
僕の世界はきっとカラフルになるのに
何て素敵な世界 そうでしょうルイ・アームストロング?
僕がうそぶいてるっていうんならきっとあんたはモノクローム
僕は通りに浮かんでいるだけ
耳鳴りが止まない 夕立が止まない 誰も気に病まない


自由詩 雨が降ってくるとき Copyright itaintme83 2012-10-14 16:59:44
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