空き家
……とある蛙

坂道の途中
ぽつんと一つ、ゴミ箱一つ
昔ながらの黒いゴミ箱
黒く塗られたゴミ箱一つ

ゴミ箱の蓋に
膝を抱えた子供が一人
ぽつんと座り
虚空を睨む子供が一人

唇咥えた子供が一人
秋の陽浴びて
涙堪える子供が一人
冷たい風が吹いている

肘の破れたセーターで
まだ学齢前の子供が一人
母も友達も現れない。
ゴミ箱の上に子供が一人

誰も文句を言わない
坂道をばたばた車両が走る。
三輪トラックが上ってくる
原付自転車が下りてゆく
荷物を載せた車両が行き交う

ゴミ箱の家は空き家になった
子供の家は空き家になった
家の中は空っぽになった
母も友達も現れない。

坂道の途中
ぽつんと一つ、一軒空き家ができた
昔ながらの木造家屋
子供一人の空き家ができた
そのまま彼は大きくなった。


自由詩 空き家 Copyright ……とある蛙 2012-10-13 14:21:32
notebook Home 戻る