斬る
渡 ひろこ
シュッと宙に向けて突き出した切っ先が
目に飛び込んできた
暗い展示室にひときわ輝く一振り
研ぎ澄まされた刀身が
強いスポットライトを跳ね返して
銀色の光を放っている
思わず吸い込まれるように近づく
蛇行する刃文の文様がくっきり浮かび上がる
そのゆるやかな刃文の曲線を尖端までたどると
「痛っ」
鋭利な刃先にスパッと視線を斬られた
凛とした真新しい太刀は
鬱屈した私のていたらくを斬る
(己の怠惰を血筋のせいにしてはならぬ、と)
見抜かれてしまった自分への口実
いや、斬られたかったのかもしれない
責め纏わりつく血のしがらみを
手を尽くしても
自己満足の徒労に終わったあの夏から
胸の底に黒い塊が棲みついてしまった
打ち鍛えられた鉄は邪念さえ祓うのだろうか
まだ血の汚れを知らない
無垢な地がねの肌
ガラス一枚隔てての対峙
そっと横にならぶ
しなやかに反る切っ先が
指し示す方向を見た