手の届かない場所
nonya


伝えることができたのだろうか
熟れ落ちていく夕陽の悲鳴を

表わすことができたのだろうか
沈殿していく闇の舌なめずりを

キーを叩く指の隙間から
瞬間は呆気なく零れ落ちてしまう
慌てて捕まえようとした額の裏側から
イメージは跡形もなく蒸散してしまう

白いノートの原野に取り残された
色数の足りない語彙の小箱を
さんざん引っ掻き回した揚句に
やっと探し当てたのは
どれも手垢にまみれた暗喩と明喩

伝えたい
伝わらない
嫌になる
書けない

それでも
書かずにいられない

どんなに手を伸ばしても
届かない場所がある

言葉の触角と魂の尻尾が
直角に交わるその場所は
夢と現の朧げな境目で
いつも蒼白い光を発している




自由詩 手の届かない場所 Copyright nonya 2012-10-03 18:54:26
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