春の約束
永乃ゆち
秋になったから
イチョウや赤とんぼをモチーフにした雑貨を探してたんだけど
何故か桜に蜜蜂のモチーフの雑貨を見つけてしまった。
いや、「しまった」とかじゃないけど。
来年の春。
自分が生きてるかどうかも分からない中に居て
それを手に取ってみても、遥か遠くに気持ちを持ってかれそうで
怖くなって手を放した。
でも。
来年の春、あの人のデスクに飾ってもらおうか。。。
とか思い立った。
そうしたら、その時までは生きていられるような気がした。
あの人のデスクで揺れる桜の花びらと蜜蜂。
あの人は揺れるように笑うから、きっと似合うだろう。
私はその雑貨をもう一度手に取って、レジに向かった。
「生きよう」
春の約束は途方もなく遠く感じるけれど。
大丈夫。生きていける。
世界で一番大好きなあの人の。
あの笑顔を。
あの細い指を。
華奢な体を。
ゆらゆら揺れながら笑って見ていたい。
「プレゼントで」
そう言って、桜色の和紙に包んでもらったそれは
なんだかずっしりと重たく感じた。
これが私の命の重さ。
これが私の命綱。
こんなふうに春を待つのも悪くはないな、と思った。
そうして秋風に吹かれながら、春を抱いて帰った。