オッド・ダイアグラム 4
平井容子


逆さまつげの生えた道を丁寧にグルーミングする犬の/バイタルサインを見逃して/睡蓮の咲くバルコニーで破滅的な行事に従事する女よ/どの恒星からも均等に遠のいて/寄り目の思考をダウンロードする/サイレンは癖になって/とりわけ嫌な周波数で待ち構えた年子の親子に乱射する/残るは黄色い羽ばかり
 ソ・ラ・ダーダ/想像上の生き物の手綱を引いて/鬼子母神をかくまうことはできても/あの橋を渡ることもできない愛だ
鋼鉄でできた風船が割れて/そこから一糸乱れぬうじの行進が始まる/わたしたちにはまえもうしろもない/その航路にのっとって進みなさい/砂のように軽くて枝のようにしなやかなものを両肩から生やした魚が陽炎を縫って泳いでいく/香る壁に挟まれて身動きができないなら/自ずから溶けなさいと/凝固したことのないものたちはいとも容易くいうけれど/ストークしていく/ストロークされていく/影と実体を持つYと/通電する世界をロックするNが/あなたの孤独をガイドする

    潔癖症のパセリがせせら笑う街の/高台でモノクロームを掲げて見えた/ねじられた岬へとつづく/レンガ造りの家々の隙間にうすっぺらい哀慕の暇がある/孤独は虫だった/責めるにはあまりにか細い力だった/なにものにも変えがたいの、と言いながらいくらでも代替できるもの、なんだ/煎じられた問いかけがどこまでも続く/目覚めないままなら/なんにでも応えることができるから/そっとめくったシーツの裏に等高線で書いたバレーに/またひとりで下っていく

        蕁麻疹を患った魚が集まった真紅の海で/月光を集める少年達が肌にゼリーをこぼして遊んでいる/わたしは夢遊病のふりをしてどこの夜にも介在した奮いトーマで/練炭を買った帰り道に永久に治らないものを患った/どうしてこんな風にこぼれていくんだろうね?/濃い潮のにおいにぶつかるまで行かなくてはならないのに/方向とは騒いでいるものだけが得ることの出来る特権でしかなかった/あなたに満ちていたいと思うほかに/つなぎとめておける波止場はなく/それも雨が降れば歪んでしまう筆致だった/それでもいつか/なめらかな帆をひるがえしコンダクターは乱舞する


病気の鳩を燃やしてしまいたいのにどう泣いていいのかわからない/化粧水に沈んだ街に匿われて/視野が熱帯夜に凍って/わたしは息をしながら窒息している/髪を毟られて/あるいは満ち足りたピンクの音叉をはじく/強くて長い爪になりたい</span>
故障した心肺機能を拝んで/胴のない羽に全部乗せて軽くなった気になった/わたしの変な声をついばむ鳥になって消えてください/わたしはただ歩きたい./歩きたい/歩きたい/歩きたい/の三乗を指折り数えて/歪んだ口の中に光る臓器を孕んでいく/間違ったらもういちど/嘔吐の中にたそがれの道がある/眠りたい/あるいは現れていたい/削り殺してもまだとろけた目でひざまずき/許された妹になって捌かれていたい
増殖炉で/希望がいま/はじめて分裂する/わたしは盲の研究者で/半透明のエッセンスの向こうから音を拾って生きている/異臭を放ちながら世界観をなじる作業に戻りましょう/流れた血で明日のカクテルを造りましょう/ライタ/すべてフリー/敵意の影で二手に割れる氷の生命線を辿っている/どこまでも歩いて行けるのになぜか足がない
警戒音の装置を枕にしてハルシオン・カラーのページを食べる/即効性のある徒労にかけようと思う/性能の良い終点で握手するために指だけはとっておこうねと約束したのに/何も持っていない状態でしか眠れないことに気づかされてあとはただただ/焦りを好んで梯子をのぼる/そこで立ち止まって見えるほどにその決意が濃い/みじん切りになった炎症がここでも広がりつつあって/たどたどしくそれをあなたに伝える役目をもったわたしの半径がよじれて過去にでも届く/サバン/偽者の/光が徐行している/咲きながら閉塞するリズムに乗って/どこかへと垂れていく/わたしは全体で掌であり/そこにはかそかな低温の星が溜まっている/跳ねて遊ぶ/一匹のよだかのくせに/わたしはついに何にも立ち寄らないままやめてしまった/碇/果てるまで飽いて/痛むまで乞うて/そばには半月形の椅子/頭が下にある動物と旅をしている男のもとで/なつかしい絵を描く/地図記号のようにあたりさわりのない写真に本物の家族が香っている/斜めにかしいだ船のふちで/どろどろに解けていく笑顔・・・・・


そんな

そんなテルミンみたいな喉を連れてどこへ行くの/百葉箱に押し込められた妹が尋ねる/そんな未熟児みたいな好意でなにを思うの/チセの港であなたと会う/顔が腐っていく/甘いにおいを放ちながら
ひっくり返った瓶が語る/どこへも行かせないで/ここと/ここだけを往復していて/ずっと/おかしいね、と笑っている/肩で息をして/気がつけばほとんどが天国のような模様の/カーペットのうえで眠っている/頬がなくなっても/舞い上がっていられた/透明な動物がこちらを見る/ひとりきりにさせてごめんね/(無音)/声を見てそばにあるヒジリからだめにしていく/ここで歌うために生まれてきた嘘だった/今しがた伝え終えてそのまま/自由律の月が落ちていく

ライオンを解体して右目から順に転がしていく/夜へ/わたしの骨はトーチになり/明け方には跡形もない綾だ/電磁の砂が舞って踊り/眠る椅子のうえへ降り積もっている/死んだ性根へも語れ/幼いおとなはまだ両生類のかたちで首をかしげ/笑っていなければ、とたてがみが唸る/やわらかな/ベタ/びろびろと伸びていく/ここはフェイク/だけどあたたかなベッド

/伝統を守って声を失ったおうむが/ヤドリギに決めた腕に嵐がくる/もう見えなくていい/そういい続けて/いくつの海を超えたの/笑ったりしてごめんね。と心にもない吐露を止め/ちいさな身体ならもっと早く走り抜けていくべきだったねと/もつれ/たがいちがいになりながら/舌を突き出す/青がおいしくて窒息しそう!/固有のdbでマーキングした海のことだよ/忘れたの?

シェイプ/腫れた後頭部に奇形のかたつむり/段差/角/方位/絹/唇が多弁になり/トパーズは永遠に忘れる/結束帯にみちみちと縛られた茎が/シェイド/どこにもいない/いない/いない/いない/あ

緑色の数珠みたいな声をさ/どうにでもして/猫が燃える/まぶしい/死にそうなほどうすぐろい/むらさき/ぼーーーーーーーーーーーっていう耳鳴りの向こうのガイドが泣いているのに/舟はすすむ/こすれているのはこちらのほうだと思う/交互に親族は争う/穴の中に目がある/ためらうほど赤い/あれは何かとても甘い気配の話/あめがやんだらひとりぼっちのことならばいつまでだって知っていました/どうかこちらへ

墨のあと/化粧板のうえで踊った/確信のツインを諳んじて/愛称ごと押し上げるのは容易いからとすべてを沖へ流した/積もるような景色のあと/広告塔に遊びに行こうとして何度も転ぶ/色弱の鷹のように風を着て飛ぶのは償いに似ていた?胃がひっくりかえるような強さからどこへ行こうとして/どこへ帰ろうとして/どこへ満ちていこうとして/どこへ集まろうとして/どこへ謝ろうとして/どこへ/必ず/そうやって区別されていく/頭は△/身体は□/手足は赤い馬蹄形/そんなふうでわたしは歌う

怖くないことがないままで/それでも/へしおれた世界の枝を口に咥え/あの坂を/急いだ
だれも指ささず/だれからも聞かれないままで/たぶん/ここだったかもしれないと泣き出す/もう終わってもはじまってもいいような気持ちで/セイレン/怖がらないでいいような気がしたままで/それから/剣のような草の道を走った/いつのまにか滑車になる/一瞬の正気をはらんで/落ちていった//掟/







201209**-20120930 fork songs 掟








自由詩 オッド・ダイアグラム 4 Copyright 平井容子 2012-09-30 23:46:49
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