脱皮の記憶
梅昆布茶
一枚一枚じぶんをひきはがしてゆく
夜の電車の窓に映った
つり革にぶら下がった幽体
遊隊を離脱し
こんなところに居たのか
勘違いした片恋の記憶
まだ薄皮がひりひりと痛むが
おわらいぐさだ
とうせんぼしている明日に
てを振りながら枝道を歩く
自分に舌打ちしてぐっと飲み干したコーラの
泡立った夏もまた赤と白の記憶になってゆく
空き缶がころころと
風にころがってそして秋
雲の上の空はいつも晴れているのだろうね
雨のそのまたうえの空
機関車が長い貨車たちを牽いて丘をのぼってゆく
それはいつの風景だろう
またちりちりと
脱皮の予兆が午後の日差しのなかで
コーヒーカップのミルクの渦のように
予定調和のなかにしのびこんでくる
いつかこうしてまた一枚淡緑色やラベンダーや
ときに薄墨色の紗が
風に剥がれてゆく
なにもかわらないふりして
その実こうやって脱皮することで
ぼくらは生きてゆけるのかもしれない
また一枚
君の色が風に溶けてゆく