詩なんてかきたくなかった
はるな

蒼白い頬が好き。と言ったら気味悪がってそのあと一度も連絡が取れなくなった子もいたしなんでか食事を抜き始めてばかみたいに痩せてみたりしたひともいた。いろんなひとがいた。でもみんなどこかへ行ってしまった。どこかわからない、どっかに行ってしまった。
肝心なところで空の色を忘れてしまう。
大切なコップを割ってしまう、くすんだ色の服ばかり選んでしまう。ばかだった。届かないと知っていた。何をしてもどうあっても届かないとしっていたからいっそ安心だった。どんかんで、ばかだった。
詩なんてかきたくなかった。歌が歌いたかった。ピアノを弾きたかった。徒競走で一番にゴールテープを切りたかった。ノートにじゃなくって好きな子に好きと言いたかった。詩なんて書きたくなかった。唇をいくつも噛みちぎった。
決まりごとのように時間を売り、その金で服を買い、靴を買い、お酒を買い、時間を買った。終りが来なかった。一日は終わらなかった。そして始まらなかった。時間を売り、またべつの時間を買った。

ある人は素敵だねと言うし、べつのある人は理解できないと言う。どちらもわたしには必要ない。なにも必要じゃない。ただ欲しかっただけだ。必要なものなんてなかった。手に入れて、無駄にしたかった。手に入れられたくて、そういう自分であるために、手に入れたかった。賞賛なんて必要じゃなかった。必要じゃないのに、欲しくてたまらなかった。
詩なんて書きたくなかった。いつも。
文字は感情を超えないし、文章は遠すぎる。詩は、いつも、わたしの心に寄りすぎる。それだけが必要すぎて、ほかの誰にも伝えられない。わたしに近すぎて、誰にも届かない。思っているようには。
尊いのは、あらゆるものに共通している無価値性だけだ。わたしも、あなたも、文字も、夜も、光も、飢えも、屋根も、熱も、意味も、なにもかも、あらゆるものの存在は、同じように無価値だ。同じように無価値で、それなのに、わたしにはあなただけが愛しい。そのことだけが尊く、ふるえるほどなのに、ひとつも伝えられずに、こんな気持ちのままで、立ち尽くして、空の色を、忘れてしまう。


散文(批評随筆小説等) 詩なんてかきたくなかった Copyright はるな 2012-09-26 01:43:15
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