しくみちゃん、リボンをさがす
御飯できた代

 ある時、しくみちゃんのセーラー服のリボンがなくなった。赤くて、カワイイ、テラテラのリボン。しくみちゃんは目を丸くして、「わたしのリボンがありません」と学校中をぐるぐるしはじめた。あんまりしくみちゃんがぐるぐるするものだから、お友達のあゆいちゃんはずるずるとひっぱられていつのまにか裏庭の焼却炉の前で授業を受けるはめになった。あゆいちゃんは教室から自分がいなくなったからさぞ大変なことになっているだろうとため息をついた。
 
 その時しくみちゃんはあゆいちゃんのことなど気に留めることなく、36回目のぐるぐるに突入するところだった。ずっと下ばかりみていたから首も限界。しくみちゃんは勢いよく首を回してリフレッシュしたからいいけど、そのせいで教室の蛍光灯の位置がはじによってしまったことは見逃せない。教室の照明事情はなんのその、ずっと下ばかり見ていたから見つからないんだわ!と、突如ヒラメイタしくみちゃんは天井を目で追いながら37回目のぐるぐるに突入した。

 ちょうど55回目のぐるぐるのときに、しくみちゃんは偉い先生に行きあった。(なんで偉いかっていうとセンセイは偉いんだよってお母さんが言っていたから!)しくみちゃんは先生に「わたしのリボンがなくなりました」と告白した。そうしたら先生は「そんなものは最初からなかったよ」と教えてくれたのだった。さすが先生は偉いだけあるとしくみちゃんは感心して、深々とお辞儀をした。顔をあげると先生はもういなくなっていた。

 そこでしくみちゃんは56回目のぐるぐるに行くのをやめた。そのため、ようやくあゆいちゃんは教室に戻ることができた。所定の位置について、黒板に向かおうと思ったらそこには黒板がなかった。なんということだろう、黒板はながれながれてどこかにいってしまったらしくクラス長のこもん君でさえその行方をつかめないのだという。かろうじて教室のはじに残っている備品類を元に戻すためにこもん君が奮闘しているのを横目に、あゆいちゃんは教室の窓の景色を楽しんでいた。どうやらこの教室自体ぐるぐるしてしまったようで、いつも見えるグラウンドではなくてさっきまでいた裏庭の焼却炉が見えた。机の脚跡が4階からもはっきり見えるもんだからくすくす笑っていると、そこに偉い先生が現れた。

 せんせいもぐるぐるしちゃったのかなとあゆいちゃんは考えたけど、どうやら違うようだった。偉い先生は一直線に焼却炉に駆けていって、その扉を開けた。あゆいちゃんが瞬きしている間に先生は焼却炉にすっぽりはまってしまっていた。あっ、と声をあげる間もなく先生は扉を閉めてしまった。あゆいちゃんが心配のあまり立ち上がると扉がゆっくり開きはじめた。先生は変わらぬ姿のまま顔を出した。けれど、ごそごそとポケットをまさぐって赤いスカーフを取り出すとそれで自分の顔を覆い、また焼却炉の中に消えてしまった。しばらくすると煙が立った。
 
 しくみちゃんはおひるの時間にやっと戻ってきた。「みつかった?」あゆいちゃんが尋ねると、誇らしげに「そんなものは最初からなかったのよ」と言った。あゆいちゃんはそれを見てにっこりと笑うと、「それじゃあこれはわたしからのプレゼントだよ」と、しくみちゃんのセーラー服に赤のマジックでリボンを描いてあげたのだった。


散文(批評随筆小説等) しくみちゃん、リボンをさがす Copyright 御飯できた代 2012-09-26 00:51:28
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