色を嫌うレンズ
まーつん



あるところに
色を嫌うレンズがあった

それが愛したのは形
そして光と影の
バランスだけ



そのレンズを通して見ると
総ての花が おしゃべりをやめた

春の日差しのシャワーを頭から浴びて パチパチとソーダみたいに泡立ちながら
早口でまくしたてる タンポポの黄色

初夏の蒼穹からポタリと落ちてくる瑞々しさの滴を 口いっぱいに含んで
じっと頬を膨らませて 見つめ返してくる ツユクサの青

冬の寒さを その香ばしく爆ぜる 地の底の熾火で押しのけて 
怒り、暗く燃えながら 網膜を焼きつくす ツバキの朱

例えば ある晴れた日に 頭上から降り注ぐ
あくまでも真っすぐな 日差しの輝きに触れ
自分の心の ねじれや たわみに 気付かされた時
それ故に 我を取り巻く景色に 憎しみや 煩わしさを覚えたとき

人は無意識の内に このコンタクトをはめる
涙に濡れた 瞳の上に そっと重ね

あるいは

諦めに乾いた 瞳の上に
わななく指先を掲げ ぎこちなくのせる

すると景色は
迫るのをやめる
報われない求婚者のように
灰色の花束を持った手を だらりとさげて
その場に佇んだまま ゆらゆらと体を揺らして 所在無げ

世界が色褪せ
あなた自身も色あせる



あるところに
色を嫌うレンズがあった

それが愛したのは形
そして光と影の



バランスだけ





自由詩 色を嫌うレンズ Copyright まーつん 2012-09-25 00:38:44
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