レモンスカッシュ
木葉 揺

あなたが後ろを向くと
私の胸から
レモンスカッシュが吹き出した

瞬く間に水の幕をつくり
私の前を一面覆う

そっと指で触れてみる
波紋は広がる

ほんの少し振り返った
あなたの横顔がゆらゆら

このまま
指先から腕へ
腕から肩へ

酸に溶けてしまいたい

鼻先と唇から頬

無数の水泡が舞い上がる
小さくはじけ
次々に顔を刺激する

このまま
頭から上半身へ

ああ、足が動かない
動いてくれない

あなたは一瞬
悶えるような表情をした後
ゆっくりうなづいて
歩き始めた

「違うのだよ、違うのだよ」

やがて
水の幕から頭を引き揚げ
私はその場に座り込む
髪からレモンスカッシュしたたらせ

あなたは
光となって揺れて
消えてしまった

次第に辺りの景色が戻り始める
雑踏の音がクレッシェンドする中

「どうして、いつもそんな風なんだ」

という呟きが宙に浮かび
ポトリと落ちて
そばにあった空き缶に吸い込まれた


自由詩 レモンスカッシュ Copyright 木葉 揺 2004-12-14 23:08:51
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