ものがたり
yo-yo

 「木の物語」

きょうもまた
あの木のてっぺんにいる
あれは多分ぼくだ
ぼくの知らないぼくがいる

忘れていたのかもしれない
ぼくがすっかり忘れていたぼくがいる
だから懐かしい

ぼくは手を振った
だがそいつは
だまって空をみつめている
空には何もない

木は知っている
みずからを語ろうとして
枝を伸ばしたことを
手さぐりの
その先にまだ
物語の続きがあるかのように

始まりはいつも
小さな一本の木だった
小さな手で植えられた
小さな椎の木だった
そしてぼくは
木だった


*

 「風の物語」

本のページをめくる
あなたの指が
風のようだと思った

息がきこえる
深いため息と咳ばらい
ただそれだけが
ひとの一生だったかのように
長い物語ははじまり
長い物語はおわる

本を閉じると
あなたはすっかり年老いて
風のようにそっと
その部屋から出てゆく

ぼくは窓辺で
ただ風に吹かれているのが
好きでした


*

 「水の物語」

わたしたち
滴って
真夜中の水になる
乾いたコップをうるおし
夢のなかへ

水は落ちてゆく
肩から腕をみちびかれて
そして
温かな手となって

空っぽな夜は
とおい声で確かめあい
めくるめく
歓びも哀しみも
水の言葉で
語りつづける


まばゆさの方へ
滴って
わたしたち
新しい水になって
目覚める







自由詩 ものがたり Copyright yo-yo 2012-09-24 06:29:14
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