乖離/summer
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コロナの中に滾る体液
君はきっとその中にいる


死角に穿たれる水路
敷き詰められた鳩の死骸


変容する五月の広場
全てから離れるように
全てから逃げるように
去っていく意味が/

わたしの心臓は
滾るように熱い光を
醸し出しているよう
それは曇天さえも救う

髪を掻き分ける優雅な指先
太陽が曇天を二つに掻き分けるように
死の匂いは熱い意味を持っている
それはひとつの希望だ
ひとつの快癒だ

水路から水路へ熱の循環が
変異していく
乖離していく
差異を生み出していく
そういった無数の意味の匂いが意味する無数の記憶を放散させる
そうして死を発散させている体液を蕩かす/


存在はそういったすべてに塗り分けられていく
熱く滾った視界
それ以外にはなにも、いらない


なにもない場所から
無限の混乱と擾乱を一心に生み出していく夏は蛇行するようにうねる
それは入道雲のように
或いはわたしの生を惑溺させる意味の樹海として述懐される/

それも意味の変えられない死の手先がひらひらと虚空を舞い

旋回している死骸
潰れた鳩の
濁った眼に青空が映る
鈍く
そこには饐えた色もない
懐かしい光景があるだけだ
生まれて初めて見た光景のような



充溢していく無の匂い
発散していく体液の匂い
生命を凝集する意志の匂い
全てを決定する死の匂い
世界の匂いだ

新しい言葉が
死の接近を回避しながら新しい記念碑を建てる
或いはわたしの死を開陳する死の羅列を俯瞰する
はためく死
接近する生
それだけが優雅に解けていくように思われるので/

わたしの飛翔と乖離に意味が/漸く残留している
わたしの死と密接に連結する瞬間をわたしは見る

わたし、わたし、わたし

いつまでもまつわりつく〈意味〉
灼熱を暗示させる夕陽が
声高にわたしの生の意味を呼び寄せ…




君の墓碑を見る


乾ききった両腕から
その光は滑り落ちていく
生と死のはざまで
懐かしい香りが漂っている
それは恍惚だ
きみはかすかに綻ぶ
その乾いた顔を歪ませて
そこには
意味も
無意味も
ない

Aria,

彼女の夢はaria だ
断片的に

あくまで
断片的に

切断されていく生の名残とそのラインを
なぞり
涙は無意味に流れている
彼女は無意味にそれを見ている


きみはそれを聞きつける
感覚がそれを覚えている
シーニュでもない
彷徨でもない
脱落した生の名残を

感覚はまだ覚えている

何度でも
何度でも
終わりなく繰り返すものだから
生それ自体も惜しくはない

眩しい光に目を開けることもできず
死ぬ者もいる
時間の抜け殻のようになって

それは
寂しくもあり
必然でもある

時の残渣は私の喉を潤すこともできない
しかしそれはある
なぜ
あるのかも知らず

それが記憶を呼び覚ます
無意味に
あるいは
有意味に

巡り巡って満月が浮いている夜に
轟音のように
その時が賦活する
たぶん
夜明けに向けて
そして
来るべき大いなる真昼に向けて
すべての忘却は収束する

でもきっと
名残はそのまま

そのまま
君を待っている



世界は無意味に充溢している
記憶が揺れている
風景が揺れている
すべてが曖昧で
意味をもたない存在が
はためいている
それは不思議な残像
永劫に
幾度も
繰り返される残像が
悲しみのなかで
揺り返す
そして時を刻む
はてしない意味と無意味の先に
玲瓏とした
世界があるから



自由詩 乖離/summer Copyright empty 2012-09-22 17:14:39
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