露草
そらの珊瑚
秋が始まる頃
ようやく
旅人が帰ってきた
ちょいと
長い散歩だったかな
と
悪びれもなく
おかえりというのも
待ち焦がれていたようで
まったくもって
しゃくなので
おみやげは?
と聞くと
くたびれた三角の帽子の中から
一輪のあおい花を取り出してみせた
双子のような花弁の
ひとつは孤独
ひとつは自由
ぼくが最も愛する花なんだ
とても瑞々しい露草だったのに
冬が始まる頃
しおれてしまった
仕方ないさ
魔法の効き目は永遠じゃない
と
彼は言ったが
さほど残念そうにはみえなかったし
実際そうなんだろうと思った
生きていくのに必要なものはなんですか?
アランフェス協奏曲だった
彼が最後に弾いてくれたのは
悲しげな音色が
あおく色づき
異国の風景が立ち上がる
あれも魔法なんでしょう
効き目は永遠じゃないにしても
そしてまた彼は旅に出た
生きるのに必要なものはそう多くない
とか言って
かばんひとつとギターだけを持って
わたしが
冬眠から覚めた頃
戻ってくるでしょう
春が始まる頃