露草
そらの珊瑚

秋が始まる頃
ようやく
旅人が帰ってきた

ちょいと
長い散歩だったかな

悪びれもなく

おかえりというのも
待ち焦がれていたようで
まったくもって
しゃくなので
おみやげは?
と聞くと
くたびれた三角の帽子の中から
一輪のあおい花を取り出してみせた


双子のような花弁の
ひとつは孤独
ひとつは自由
ぼくが最も愛する花なんだ


とても瑞々しい露草だったのに
冬が始まる頃
しおれてしまった

仕方ないさ
魔法の効き目は永遠じゃない

彼は言ったが
さほど残念そうにはみえなかったし
実際そうなんだろうと思った

生きていくのに必要なものはなんですか?

アランフェス協奏曲だった
彼が最後に弾いてくれたのは
悲しげな音色が
あおく色づき
異国の風景が立ち上がる
あれも魔法なんでしょう
効き目は永遠じゃないにしても

そしてまた彼は旅に出た
生きるのに必要なものはそう多くない
とか言って
かばんひとつとギターだけを持って
わたしが
冬眠から覚めた頃
戻ってくるでしょう

春が始まる頃




自由詩 露草 Copyright そらの珊瑚 2012-09-22 11:02:10
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