未完の歌
紅月


ひつじたちへかなしみの業を負わせる物語に
いっさいの批判をさしのべてください
いかなる犠牲をもいとわないという独裁の
空白への遺言として五感が間引かれてゆく


領海の侵犯をそらんじてはひとり
「献身」という題名の歌劇を観ていた
やわらかな風がぬける春の縁側で
ひつじたちを愛でる話(エピローグで世界は鏡にかわる)


哺乳類の関節がなだらかな坂道をくだってゆく
鳥類が異国語でなにかのまじないをくちばしる
くちばしるくちばし(訓話が朽ちてゆく)


「つまり主観の問題なのだね」と
くちぐちに口にするひつじたちはいつまでも物語の主人公だった
主観的な祭儀がみとめられた口伝の麓から歌がきこえてくる




自由詩 未完の歌 Copyright 紅月 2012-09-20 20:47:34
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