未完の歌
紅月
ひつじたちへかなしみの業を負わせる物語に
いっさいの批判をさしのべてください
いかなる犠牲をもいとわないという独裁の
空白への遺言として五感が間引かれてゆく
領海の侵犯をそらんじてはひとり
「献身」という題名の歌劇を観ていた
やわらかな風がぬける春の縁側で
ひつじたちを愛でる話(エピローグで世界は鏡にかわる)
哺乳類の関節がなだらかな坂道をくだってゆく
鳥類が異国語でなにかのまじないをくちばしる
くちばしるくちばし(訓話が朽ちてゆく)
「つまり主観の問題なのだね」と
くちぐちに口にするひつじたちはいつまでも物語の主人公だった
主観的な祭儀がみとめられた口伝の麓から歌がきこえてくる