原風景
もっぷ
原風景は黄金に実った稲穂が
風に揺れて波立つというものだった
背丈のままの記憶のままに
そのことを思い出したのは
ずいぶんと移ろったのちのことで
恋しがってもすでにそれがどこで
のことだったのか
ただただ脳裏に焼きついているだけの
いつかの晩の夢だったのかもしれない
それでも手招きをやめないその風景は
それは
唯一の
帰ることのできる場所のように
少女には思えたのだった
二度と
その場に在ることができないことも
少女をかなしませた
背丈の伸びは決して逆行することがないから
もう
戻れない
(もしも本当に原風景であったならば
もう
過ぎてゆくばかりの歳月
(こんなにも、やり直したいのに!
ちいさな失敗も
大きな過ちも
消せない歴史の重さといったら
さもないひとりのちっぽけな憂鬱でしかないのだけれど
自分だけを見守ってくれている
自分だけの神さまは
彼女が育ってゆく毎に
どんどん冷たくなっていくようだった
試練
なんて言ったらきっと申し訳ない程度の
試練
なんだと言い聞かせても説き伏せられない
自分の弱さ無力さに
自分の意固地にかなしみに
いつか訪れるのだろうか
哀れみを他の存在に許して見つめることのできる日が
原風景は黙して語らずその色彩のみが
少女に宛てて
時には
本当の愛を告げたい
と
そう願っているようだった