lean
紅月

 
 
 
朝の海の喧騒のなかでもはや鳴いているのは鳥の「歌」
わたしたちの歩みはひとつひとつ喪に服すようにもろく
少しずつ衰えてゆく明日軋るのはどんな歌か
昨夜あれほど快活だった暖炉の炎はやわらかな余韻とともに消え
「僕は呆気なく燃えていた」という記述が遺言となった
死に於ける利点はもう祈らなくてもよいということ
「作者すら死んでしまうのですよ資本主義の犬め
ですから
それでもうつくしい、と、きみはいわなくてはならない


言い続けなくてはならない」
バンヤンの樹の陰で眠るあおい亡霊たちの
頭上で根がからからと音をたてながら風に遊び
わたしたちの影はいっそう薄くなってゆく
輪廻という言葉が好きだった羊飼いの友人のことを不意に思いだす
輪廻というなめらかな蜘蛛糸が空から枝垂れているのが見える


「よろこびはどこにあるのか」と彼はわたしに問う
「ずっとあなたを待っていた」とわたしは答える
やがてよろこび色の雨が降ってくるだろう
次の明け方まで続く永い雨だ
 
 
 


自由詩 lean Copyright 紅月 2012-09-19 04:37:21
notebook Home 戻る