古い電話
アラガイs


よほど不在が気になるらしい。
忘れたころには必ず電話がかかってくる 。
それもきまって夕食を済ませた後か、食事の最中にである 。
べつに何かあるわけでもなく、何も無いのがわかっているから**会話は身のまわりの健康や昔のことだけに終始してしまう。
最近は何かと用事を付けてはすぐに受話器を戻すようになった。
それでも三ヶ月に一度くらいはきちんとかかってくるのだ 。
たまにめんどくさくなると明るく弾むような勢いで応対を変えてみる。
すると声は急に重苦しく暗くなる。
反対に、ひとつ暗い話しでも持ち出そうものなら、声は井戸の底からよみがえったような力強さで活気を取り戻す。
まるで余命数週間を宣告された病人を見舞ったその翌日に、院内を元気に歩きまわる姿を目撃してしまったような、といった調子ではないか。
元同僚といっても彼は数年で会社を辞めさせられた 。
ふざけては会社の悪口を言い合ったり、何度か酒も飲みにも行った。
仕事を抜きにすれば愉快で威圧感のない男だったので仲はよかった。
よほど話し相手がいないのか、懐かしさが忘れられないのか、
もっとも、誰彼かまわずに電話をかける癖は相変わらずのようで、彼にとってわたしはいまだに友人の一人らしい 。











自由詩 古い電話 Copyright アラガイs 2012-09-17 13:14:47
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