ティアドロップ
ブルーベリー

ゆるゆると目を開ければ
ネクタイの衣擦れる音で
覚醒する

ギターを爪弾いた手が
今は不器用にネクタイを結んでいた

ワイシャツの光沢が目を刺す

君の手はそんなに大きくなかった
アーケード街の地下のライブハウス
土曜の課題を抱えながら寄り道をした私を
君は意地悪に哂うと
白く細くこの手でその喉で
震えるように光の中で叫んだ

それでも独りではなかった


猫の絵を描いてくれたTシャツに
袖を通すその前に
君は知らない人になった

夢見た君の声をいくつか知っていたのに
君は知らない人になった

今だったらよかったのにね

雪の深さも風の強さも知っていたのに
矮小なこの世界を泳ぐ術は知らなかった
君は割と愚かで無鉄砲で優しすぎた

また弦を切らしただけなんでしょう

白い柔らかな乱暴な指の感覚が
知らない人になった君を
過去にはさせてくれなかった

ティアドロップに触れる
君の顔が 少し変わっていたとしても


自由詩 ティアドロップ Copyright ブルーベリー 2012-09-15 19:11:36
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