ひとり みちゆき
木立 悟






いつか
わからなくなっても わかるように
稲妻を連れてゆく
径より細く 径を照らす夜


音に分かれ
うたに分かれ
坂は水に沿い
ゆうるり光る


土を泳ぐ生きものが
何も見ない目で振り向きながら
森の奥へと消えてゆく
午後の入口から さらに奥へと


馬車は
楽園へ向かうのだという
うれしくもないのに うれしいふりをする
あの場所へゆくのだという


折り紙の光
通りに落ちて
よそ見から生まれた
小さな生きものに手わたして


右まわりを勧めて
すべては ほどけた
螺子の大地を
季節は幾度すぎたのか


雨と樹のなか
光の土を踏み
音は痛み 音は昇る
時計の針が 消えてゆく



もしもわたしが まだわたしなら
実りではない実りを憶えてほしい
海へ捨てられ むらさきとなる
取り上げられた子らを知ってほしい



紙を裂き
砂に岩になり
水へ逃れる指から先に
小さな衣を着せられてゆく


かたちのままに歩むうち
かたちはどこかへ消えてゆく
砂と光と油の輪
水のなかを飛んでゆく


夜の灯が地を灼き
行方なきものに行方を与え
街はずれの崖を 上から下まで
小さな羽が埋め尽くしている


水辺の骨の木
水に映る自身を見ている
藍は霧に溶け
谷から谷へ流れ出る


ひとつひとつ 稲妻を撫で
夜の翠を指に帯びれば
しようとするほどできぬものたち
降りそそいでは径をつくる





























自由詩 ひとり みちゆき Copyright 木立 悟 2012-09-15 10:43:29
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