真夜中の岸辺
伊月りさ


ブラインドタッチのせせらぎに
あなたが流れている
まぶたをおろして
まるで ひとりでいきているかのように

真夜中の岸辺は
いくつものあなうらを傷つけるという母のおしえが
反射のように わたしから世界を鎖す

わたしには指がない
ので
石切をしない
   ようにするために
   指がない
   のだろうか、
わたしは濡れない、
という科学のような言い伝えを履いて駆けのぼり
立っている
ただ
真夜中の岸辺に
あなたが流れている
  あなたが流れているのに

背中
えぐられて
かわがきれて肉がのぞかないほどに血が覆って
いる わたしの
あなたの背中なのだから
もっと 逃げてください、
できるだけ まっすぐとおい空へ、
まっすぐに、
届いていかない
この声帯を
おもりをくくって鍛えなければならない
おもりをくくって
沈めたい、
  濡れたい、
    ひとり でもいいのかもしれない、
    ということを わたしたちは共有したほうがいいのだ

この水の緑が山々をうつしているように
指先は語り続けている
わたし以外のすべてに向かって
わたしが知りえないすべてで
それは
すくっても、
すくっても、
このてのひらを揺らすだけで
あなたを確認するためには
その頭から爪先までを裂いた血ではとても足りないのだ、

   あなたが何人傷つけば
   この川は濁るのだろうか、
   あなたを何人沈めたら
   この川は溢れるのだろうか、
   わたしの
   あなたの
   証明をさせてください、
   わたしたちを泣き止ませてください

また
冬が来る
真夜中のような
岸辺に まるで
ひとりでいきているかのように
つめたく
跳ね続ける
裸足、
ねむり続ける
せせらぎ


自由詩 真夜中の岸辺 Copyright 伊月りさ 2012-09-13 09:41:13
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