憂鬱の鎖
ただのみきや

いつも猫ばかり見ている

静謐な佇まいに時を忘れ

衝動のまま自らを由とする様に息をのみ

猫という美しい獣に憧れ続けている

 わたしは悲しい犬

どれほど否定しようとも

犬は犬 性は性

主人に褒められたくて今日も尾を振っている



ああもし猫になれたなら

この首輪もリードも捨てて

主人との絆をも捨てて

自らが主人 たった一人の王国

見慣れた景色が雨上がりのジャングルのように虹色に輝く

いつも一番お気に入りの場所を見つけ出し

全て煩わしいものから遠ざかる

静かに時のせせらぎを見つめよう

季節の変調を敏感なひげに感じながら



しかし わたしは犬として生まれ

犬として死んで行く これが現実だ

満腹したらそんな悩みも忘れて

不恰好な寝姿をさらす 夢の記憶も残らない

唸ることも吠えることも

鼻を鳴らすこともよだれを垂らすことも

生る限り続いて行く

揺蕩うしっぽ あの不思議な瞳の宝石に恋焦がれながら

もはや主人の愛情も薄れて久しい

  お荷物の老犬なのだ




自由詩 憂鬱の鎖 Copyright ただのみきや 2012-09-10 22:52:47
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