屈折点
梅昆布茶
僕らのみている世界が正立像だなんて
根拠のない迷信なのかもしれない
大地は空で重々しく草も生えているし
空は大地で星が涼やかに流れている
僕達は倒立した空の道を車で走り回り
42.195キロの空の駆けっこをする
そうなんだ屈折望遠鏡で世界をみると
街を歩くあの娘もこの娘も華やかに倒立してフレアースカートが
空に向かってひらひらなびいているんだもの
ルネ・マグリットも吃驚だね
すべては光の進む速度が物質によって異なるせいで
人間の網膜に映る世界も本当は倒立しているんだって
でも今度は視神経が逆立ちしてそれをもとに戻してるんだって
ではどっちが上なんだろう
本当はピサの斜塔は5.5度の角度で空にめり込んでいて
ガリレオは鉄の玉を空に向かって魔法のように舞い上げたのだろうか
時代によって場面によって時の速度が変わるように
様々な角度で僕達は様々な密度の世界をすり抜けて生きてゆく
ときに反射して照り返し
屈折してあらぬ方向へとばされてはまたはね返って
ときに収束して炎のように何かを焼き尽くして
それでも万華鏡のようにくるくると巡る世界の断片となって
日々小さな模様を織り成してゆく光のように
時代が屈折しても世界が反転してもそうやって
自分の時を刻んでゆく無邪気な魚なのかもしれない
泳ぎきったさきも知らぬげに
まるで光と戯れるように