冬と走狗
木立 悟





冷たい汗
夜の金の径
いつまでも響く
足跡の径


塩の岩 塩の波
街のすきま 
指のすきまを埋める白
痛みの音 静かな
水音


無垢の右目 狂気の左目
ふたつは常に 花を視る
花は常に
花の無い場所に在る


朝はあふれ 朝に消え
金は残り 影に漂う
東へ 東へ急ぐもの
奇跡の無いことを知っている



波が到き 光は離れ
影が降り 地は沈む
いのち無きものの
いのち無きおこないが
いのちを起こし
消してゆく



午後のはざま
弦のはざま
挿し入れられる
銀と鉛の指に震えて


風が増し
墓地を沈めた水を揺らす
音は音に 交差しては消え
虫は土の階段を下りる


岩の七態
無人を見る目と見ない目の重なり
水を映す
羽の横顔


小さく巨きな食事のあとで
曇はふいに自身を語った
無数の季節を
呑んでも呑んでもひとりだと


風は岩の村を通り
少女をくりかえす少女たちを見る
うたを残して立ち去るまれびと
崖に散らばる骨の声を聴く


白は白を良く知らず
白へ白へ近づいてゆく
異なるもののはざまに降るもの
こがねいろに笑みつづけるもの


真昼と無音
逆さまに夢みて
いざないはいざなう
径に響くものの行方へと



























自由詩 冬と走狗 Copyright 木立 悟 2012-09-02 23:12:52
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