竜野市へゆく
生田 稔
竜野市へゆく
夏去りて秋に入りゆくはざかいの妻の花壇に何の花咲く
妻と共過ごす居室の窓の外曇り空なり今日コンサートゆく
紙五枚束ねてカバンに入れにけむ今日の旅行の歌記さんと
○
空曇り涼気漂う朝空に四人乗りたるマーチは走る
青い葉が道端の垣に茂りいて流れの青き橋を渡りぬ
光の輪ひろごる暗き遂道出づればほっとし息をつきけり
高速路如何にもこの道邪道につき四囲の壁しか目に入らずして
彼方此方とちらつく視線その先に美的対象何ほどもなし
しなやかに女性3人話し合う車走るよアスファルト跳ね
西宮43年以前なる記憶はありて今走り過ぐ
岩肌をあらわに見する山ありて過ぎゆく道の後ろに消ゆ
濃き緑連山つづく広き国兵庫の土地にはや着きにけり
揖保の里そうめん食みし昼げの間しきり考う身の上の名を
揖保川のほとりを行きて川面にはそよそよそよと風が吹きいる
燈籠の三対立ちけり永富家庭の木立にそよ風も吹く
鏡台に箪笥ありけりさしずめも女主人の部屋にありけむ
団扇持ち一めぐりせし内庭の蔵のさび槍ゆかしとおもう
○
妻奉仕に出る
朝9時の出立の時妻装うキリリと仕上げ立ちおりにけり
頑張ってと声をかければ「まあね」と元気に答え出でたりき
吾ははた資料につきて練習と机に向かい本を開けり