火の鳥
結城 希

火炉から伝わる振動で
室内の空気が震えていた
重い隔壁に遮断されているにもかかわらず
バーナーの熱が 鼻を焦がすようだった

 外では
 遮るもののない太陽が
 青空にただ一点 光と熱を放っていた

硬いジュラルミンの台に 足を乗せ
隔壁にある たった一つの小窓を覗く
そっと
私を育ててくれた人が
幼い私の肩を 抱いてくれた

火が吹き荒れていた
上下から噴く炎が 炉内を緋色に染める
その中心で 炎に包まれた何かが
ゆらゆらと揺れていた

かつて人であったもの
私が よく知っていたはずの人

棺はとうに崩れ去り
私たちが添えただろう花々も
かけらと残ってはいなかった

火に包まれた 腕や身体が
形を失いながら
受け皿へ 落ちてゆく
そのたび火の粉が舞っては
炎が踊る

まるで 重さと引き換えに
空へと上って行くかのように

どれくらいの時間が経ったろう

いくつかの 儀礼的なやりとりの後
私たちは その場から立ち去った

車両に乗り込む直前に
屋舎を振り返ると
黒く煤けた煙突が 高く伸びていた

その先には
空だけがあった


自由詩 火の鳥 Copyright 結城 希 2012-08-31 02:01:43
notebook Home 戻る