不安不安
……とある蛙

乞食

たった一杯のコーヒーを飲めずにのたうち回っている老人
その瞳の中には険しい眼差しとオドオドした炎のちらつき
言葉を無くした老人は襤褸を纏って道を彷徨う
ぶつぶつ世間への呪詛なのか
何やら言葉を呟きながら
聞こえるようで聞こえない
偏見に対する恨み辛み
皮膚は赤黒く爛れていていて、異臭を放って
道行く者皆顔を背け、存在しない者として認識を拒絶する
襤褸は漂う匂いと共に彷徨う、

道の中央を物狂いした老人が彷徨う
係累縁者に老人の存在は拒絶され
老人に視点はない。瞳の奧はくすんだ鳶色
哀しげではなく、不安の目の奧 
素っ頓狂な声を上げ、街角から街角へ
前歯二本欠けたその相貌には
恨みの欠片。

ビルの隙間の壁に寄り掛かって
空き缶回収の銭で焼酎を飲む浮浪者(はぐれもの)
恨み辛みをぶつぶつ呟くだけでなく
通りがかりの若い男女に大声で絡んでいる。
だが物狂いした老人は
若男女には目もくれず
おぼつかない足取り
で素っ頓狂な声を発して
彷徨う。

モーゼのように彼の進む方向は
人並みが真っ二つに分かれ

爺さん大声を出して
何を言いたいんだ

老人は突然の問いかけに
後退りしながら
疑わしげな眼を向ける
何も言いたい訳では無いのだ
彼は漠然と不安なのだ

老人の吸っている空気が
老人の歩いている地べたが
老人がみている風景が
老人をみている通行人が
老人が住んでいるこの町が
老人が大好きだったこの国が

老人が指さすビルの透き間の空は 今では
得たいの知れない 黄色の粒子が拡散している
気づいているが
見て見ぬふりをしている輩だらけ
老人は脅えているのだ
粒子から放射される
眼に見えない圧力を感じながら
それがハッキリ感じられるのだ
この得体の知れない不安を



自由詩 不安不安 Copyright ……とある蛙 2012-08-28 11:58:30
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