ブレーキ!ブレーキ!
Seia
急に外からブレーキ音が聞こえて
部屋のカーテンを開けると
景色がゆっくり動いて止まった
どうやら
どこかの駅に着いたようだ
部屋の窓が電車の窓と繋がる事は
たまに起きるらしいから
私は部屋着のままで
駅弁売りから思わずお昼を買った
窓の外がいつもの駐車場に変わる前に
どこか素敵な場所に
連れて行ってくれないかと
願いながら桜でんぶを食む
ホームを歩く人の目がふと気になって
カーテンをサッと閉めて
着替えだけ済ませた途端
ベルがじりじりと鳴って
列車は六畳の部屋を引きずって
静かに走り始めた
いつの間にか
街を抜けた列車は
山の間をするすると
縫うように走る
時にはトンネルに包まれたり
谷に沈む夕陽に照らされたり
湖のふちを綱渡りしたりしている
一人旅なのが 少しさみしいけれど
いつの間にか
夜の帳が落ちて
列車はゆらゆらと
闇を切りながら走る
時には月の光を浴びたり
窓の外に鏡写しの車両が
いつまでも並走したりしている
夕飯の事すら すっかり忘れていたよ
急に外からブレーキ音が聞こえて
窓の外を見てみると
いつもの駐車場で
黄色のビートルが
猫を引きそうになっていた