「ヒグラシが鳴いている」
ベンジャミン

台風何号かの接近を数えているうちに
夕暮れの窓から入り込んでくる
それはいつの間にかやってきた
秋の気配をはらむ風

誰かが、もう夏も終わりねと呟く前に
静かに後退してゆく日々を
僕は前進しようとする

それは、生きるという単純で困難なことに
たった一つの意味でもいいから持たせて
きれいに終われたらなんていう
残暑の熱にうなされながら
それはまた本能のように願うことに似て

涼をもとめてあびた水が
まるで羊水みたいに包んでくれるとしても
僕はいったい何とつながっているのだろう


(ヒグラシが鳴いている)


やはり悲しいのだろうか
悲しさを忘れようと鳴いているのだろうか
このたった一度の夏のために

過ぎてゆく日々にさよならを言うなんて
明日が約束されてもいない僕らにも
また次の夏を待つことは
はるかに遠い願い事なのかもしれない

台風が近づいて
その大きな風であらゆるものを荒らした後
まるで何事もなかったみたいな晴れの日に
ふと、思い出すことがあったら


(ヒグラシが鳴いている)


このたった一度の夏を
懸命に生きた証として

おもいきり叫ぶように泣くことを
ためらってはいけない

そして、

おもいきり叫ぶように笑うことも
ためらってはいけない

  


自由詩 「ヒグラシが鳴いている」 Copyright ベンジャミン 2012-08-26 15:27:35
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