あんよがじょうず
夏美かをる
夕御飯の片付けをしていたら
最近歩くことを覚えた 二十ヶ月の娘が
「あんよ、あんよ」と言いながら 手を伸ばしてきた
ああ
たとえどんな重要なことをしていようと
こんなにも透き通った瞳が訴える
こんなにも純粋な願いを
どうして断ることができよう
早速水を止めて 娘の手を取った
「あんよがじょうず、あんよがじょうず・…」
そう声を合わせながら
居間と廊下を何往復しただろう?
流れ過ぎていく日常にふっと湧き出した
限りなく愛しい時間に包まれながら
まるで命までをも預けるかのように
ギュッと私の指を握っていた
その小さな手の確かな感触を
これから十年経っても 二十年経っても
私は決して忘れないだろう