わたし うつわ
木立 悟





指から少し離れた宙から
水が こぼれおちてゆく


紙を三つに切り
ひとつ あまる


ところどころ 穴のあいた肉から
音が抜け落ちてゆく


鬼の子が二人
指を照らす光を見ている


風が壁に 石を立てかける
やがて壁も 石のひとつになってゆく


炎にひたす 風にひたす
何を 何かを
ただ 次々と


羽の無い背の羽を 口にふくみ
じっとしている


山が 鳥に散る
極楽は 狭すぎる


王国と雨 虹と花
視線呑む午後


焼ける空 影絵の葉
ふちどりの冬 ひらかれた門


弓が弓の宇宙をめぐる
放たれず置かれる やわらかな矢


にじみにじみ ふるえている
夜より高い 橋と回廊


ふつふつと曇を食べ 夜をすごす
今も 過去の何処にも
同じものを見ない


白に白にそそがれる道
影を知らないのなら それでかまわない


切っても切っても 切れぬ蒼に立つ
泡でも虫でも鳥でもあるひと


午後は午後に さらに細くなり
静かに消えゆく背を浮かべる


岩と少女が たがいちがいにつづく地に
無色の旗がたなびいている


白は軋み 青は高く
無音は無の地に さらに風を呼びこんでゆく


わたしはわたしから離され 何処にでも在る
すぐに消える花と 融けない氷から成る器のように


よく見えず よく聞こえぬ濁りのほとりに
わたしはわたしではないかのように並べられている
































自由詩 わたし うつわ Copyright 木立 悟 2012-08-23 23:45:09
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