瓶詰の夜
石瀬琳々

読みかけの本を閉じて結んだ髪をほどく
夜は音もなくすべってゆくベルベット
やわらかにうなじにまとわりつき


わたしは旅に出る 夜の時間に分け入り
夢の中で出会ったあなたに会いにゆく
待っていて あれは青々と繁る木下闇
それとも丘に続く長い道 今、月がのぼる


流れ星のようにわたしも落ちていった
あなたの心に落ちてもうどこにも行けず
名もない星を抱いて夢を見ている月
満ち潮のように夜も落ちていった
残されたのはいとしい、あなたのその痛みだけ


草原を渡る風はいつかの唇に触れて
あるかなきかの言葉を告げた
足もとの瓶が倒れて水が流れてゆく


やがて川になりつま先を濡らし心を濡らし
どこへ流れてゆくのだろう 明日さえ知らず
光を求めて手をのばす またページをめくるために
夜明けがさざ波のように満ちてくる


あなた、どうかおやすみの長いキスを







自由詩 瓶詰の夜 Copyright 石瀬琳々 2012-08-23 13:47:13
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