君を待ち続けて
灘 修二

天を仰いでなんど君の名を呼んだことか
だが、君の麗峰まで声は届かない
君は雲に隠れて、姿を見せない

君は、雲を従え、引きこもる
湖畔で、日が暮れるまでひとり君を待っていた

夜が来た
だが、君は来なかった
夜の帷は、人々の喧噪をかき消して、窓の明かりは人々をちりぢりにする
君は、大きな存在を夜空に隠して、ため息をもらした

わたしは、人々より前にここにいた
この世の始まりとともに、ここにいた
人々がここに来て、私は隠れた
人々の営みなど知らない。わたしは街を何度もゆらし、壊した
怒りを静めることなど知らない。わたしは何度も炎を吐き、街を焼いた

朝が来た
だが、君は来なかった
蹄の音で目を覚まし、石畳から天を見上げて異邦人が祈りを捧げる
愛しい人よ
出てきておくれ
今日は、君に出会うために最高の朝をくれたから

昼がきた
だが、君は来なかった
太陽が湖岸に揺れる波を射貫くと、真夏の空の競演がはじまった。
君から吹き下ろす風が透明なバラを描くかと思うと
君の侍雲は、湖を映した青色のキャンバスを縦横無塵にさすらう
だが、君は不動のまま、姿を現さない

午後が来た
だが、君は来なかった
どのくらい待っただろうか。
時間の速度が鈍くなり、私の影が長くなる頃、遠くから雁が渡ってきた

このまま君に会わずに帰ろうか
君が求めているものとわたしが求めているものは違う
愛と夜が出会い、朝と決別する君とすれ違う

会えなくてもいい
このまま、あこがれの貴婦人でいておくれ
肩にかかった残雪渡る初雁に、雲の扉を開けてもらい
私の想いを届けてもらうから
片想いが透きとおっていく空の彼方へ


自由詩 君を待ち続けて Copyright 灘 修二 2012-08-22 12:14:31
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